一級建築士夫婦の自宅設計 とても重要な「設計のテーマ」

設計のテーマ決め

こんにちは。TSUGUTE.sagaeの石井です。

今日はいよいよ設計スタートという事で、最も重要な「設計のテーマ決め」についてお話したいと思います。この「設計のテーマ」というのは、家を考えていく上での軸になる部分ですので、しっかり考えて、また家族や設計者の方とも話し合って、軸としてぶれないテーマをもつことが必要になります。自分の頭では完璧だと思っていても、住宅は自分だけで建てるものでも、自分だけが住むものでも無い事が多いですので、一緒に生活する人、建てる人と、「テーマのすり合わせをしていく」事がとても大切になってきます。また相手に伝える事もなかなか難しく、テーマを口に出して、また時にはイメージを見せて説明し、時間をかけて事前に相談しておくことがとても大切だと思います。
私も妻と、どんなテーマを自宅に持たせるかということを、かなり昔から話し合ったり、イメージを共有したり、常に考え続ける事で、理想の姿をなるべくシンプルで少ないテーマとなるように少しずつまとめて来ました。そうした中で決まってきた住宅のテーマが以下の2点です。

サスティナブル
人にやさしい

目次

サスティナブル

サスティナブルとは「持続可能な」と言う意味です。経済活動を回しても消費するだけでは無く、循環を意識して取り入れる事でいわゆる地産地消し、そこに住む中で何も消費しない事を目指したいと考えました。そのためにも今までの経験や知識、新しいアイデアを持ち寄って、家だけでなく、そこで営む生活を想像しながら設計をする必要がありました。一言でサスティナブルといってもその構成要素は多く、以下4点の観点が必要だと考えています。

①循環を考えた材料選び
②オフグリッド
③200年もつ家
④災害に強い

①循環を考えた材料選び

住宅の材料の中で「循環出来ない」を意識した時に先ず排除するべきは「化石燃料由来の物」で主に樹脂製品だと考えています。住宅を作る上で可能な限り樹脂製品を排除し、代わりに木材を使用する事で修理・修復が可能となり(例えば木材は大工さんの昔からの技術で今の物を活かして修復が可能です。樹脂は部品を丸々交換するしかありません)持続可能となるのです。そのために断熱材等も木材の物を探しました。

②オフグリット

②オフグリットは「公共の電気や水道を使用しない」と言った意味ですが、さすがに100%は難しいとは思いますが、限りなく消費するエネルギーを少なくする事、また消費するエネルギーも化石燃料に頼らない事を意識することにしました。つまりインフラには接続しますが、可能な限りそのインフラに頼らないようにする。そのために使うエネルギーはなるべくⅰ)自分で作り、ⅱ)溜めて、ⅲ)最低限しか使わない暮らしをするという事です。具体的には、ⅰ)太陽光発電を設けて電気を作ります。ⅱ)その電気を貯めるためにV2Hと言う設備を使い電気自動車に電気を溜めて、電池として、またⅲ)移動のためのエネルギーとしても活用します。
また太陽光の電気を今度は熱エネルギーに変えるために、ⅲ)エアコンとお日様エコキュートを設置。その熱エネルギーを逃さないために断熱性能と気密性能を高める事でⅱ)住宅もエネルギーを溜め込む電池の役割を果たします。そして最もエネルギーを利用する冬の暖房設備はⅲ)薪ストーブを検討しています。寒河江の周りでは昔は林業が栄えていたと聞いています。地産地消を目指すためには地域の木材を活用して、ちゃんと消費する事で循環させる必要があるのです。
またⅱ)雨水を溜めてⅲ)畑の水にも使用する予定です。井戸水の利用も考え検討しましたが、費用が高く、限りある資源を消費している可能性がある事等の理由から採用をやめました。
そして畑を備える事。これによってⅰ)作るⅱ)溜めるを「食」にまで広げる計画です。東京に住んでいた時には、自分が活動する度に消費しかしていない自分の生活が嫌だったため、このオフグリッドが出来る家を作るために寒河江に来たといっても過言ではありません。

【オフグリッドのための対応イメージ】
ⅰ)作る:畑⇒食べ物、太陽光発電⇒電気、近くの森⇒薪(熱エネルギー)、雨⇒水
ⅱ)溜める:広めのガレージ・パントリー⇒食品の備蓄、V2H・EV ⇒電池、
      高断熱・高気密・エコキュート・薪棚⇒熱エネルギーを溜める、
      雨水タンク⇒水を溜める
ⅲ)最低限しか使わない:家の電気消費を抑えるため、高効率機器やLEDの採用。
    最低限の空調。またそれらをモニタリング・改善するためにHEMS導入

③200年もつ家

なぜ200年持つ家にするかというと、一番環境に良いのは、今住宅業界で当たり前のスクラップビルト(壊して新築)をやめる事だからです。既に100年程度経っている家をリノベーションしてとも考えましたが、ゴミや構造等、様々な観点から今回は新築で計画します。また次の代まで持つ資産(⇒家)を形成することが、自分の子孫へ「半生の借金(住宅ローン)を背負わなくても済むようにしてやれる事」につながると考えています。達成させるための具体的な対策としては、なるべくⅰ)材料を県産(湿度による経年変化が少ない)の無垢の木材(劣化しても修復出来る)として、ⅱ)樹脂(材料が劣化した際に交換できない)や接着剤を使用した構造材(集成材やベニヤ)を使用しない。ⅲ)耐震等級3を確保し、点検しやすくする。等です。

【200年もたせるのための対応イメージ】
ⅰ)材料を交換・修復可能な材料に⇒県産木材を中心とした、木の無垢材使用
ⅱ)樹脂や接着材を使わない⇒集成材や合板といった接着剤で固めた構造材を使わない
  理由:数々のリフォームの経験から200年もたないし、交換・修復が困難になるため
ⅲ)構造を強く点検可能に:「長期優良住宅(耐震3・各部を点検)」を取得

④災害に強い

地球温暖化によって異常気象が増え、その結果、災害が5倍にも10倍にも増えると言われています。その際に生活できる家にしなければいけません。そのためにハザードマップを利用した土地選びから、②オフグリッド③200年もつ家を目指した設計とすることが、災害対策にもなると考えています。

人にやさしい家

もう一つのテーマが「人にやさしい家」です。本当に永く住める心地の良い家を作るためには、その家が「人にやさしい」必要があると考えています。これは一方で、今世の中に出回っている当たり前の住宅が「人にやさしくない」部分が多くあると私が考えているからに他なりません。
家を人にやさしくするために、必要だと考えている要素が以下の4点です。

①化学物質を使わない
②バリアフリー(動き・温度)
③シンプル

①化学物質を使わない

今の住宅の多くは石油由来の化学物質を大量に含んで建てられています。具体的には、新建材(代表的なものは合板ベニヤやビニルクロスや樹脂の断熱材、クッションフロアやフロアタイルと呼ばれるビニール床材等)と呼ばれる化学物質を大量に使用した材料を多く使用しています。またドイツでは発がん性が認められ1995年から製造・販売が禁止されているグラスウールも多く使用し、それらを気密性を取るためにビニールで覆ってしまう施工方法が多くの住宅作りの主流となってしまっています。それによる体調不良を防ぐために建築基準法で0.5回換気(※1)が義務付けられていますが、あまり人にやさしいとは言えない状況ですよね。この住宅作りでは当たり前に使われている新建材を極力使わない事は意外にも難しく、様々な点から悩むことになりますが、それは次回以降に詳しく書きたいと思います。

②バリアフリー(動き・温度)

数十年ほど前から言われ始めたバリアフリーへの配慮も人にやさしい家の要素となると考えています。またあえて「(動き・温度)」と書いたのは、一般的に言われているバリアフリーは「動き」のことで、このバリアフリーを設計に取り入れる事(段差解消や手すりの設置、車いすでも通行可能な廊下や扉の幅の確保等)はとても重要ですが、同様に重要なのが温度のバリアフリーです。現在、温度差による死亡要因である「ヒートショック」は交通事故の7倍(22年交通事故約2,600人に対しヒートショックは19,000人との統計結果もある)と言われています。これを防ぐためにⅰ)家全体の各部屋で温度差を作らない。ⅱ)壁面と部屋の中心部分との温度差を減らすことが必要になります。

【動きのバリアフリー】
目的:身体が不自由になっても生活が制約されない
手段:段差の解消。動線の幅の確保。必要に応じた腰掛や手すりの設置

【温度のバリアフリー】
目的:ヒートショックの防止
手段:床下暖房を利用した全館空調。窓・壁の断熱性能を高め、空気温度だけではなく体感温度も高める(※2)

③シンプル

これはサスティナブルとも共通するところではありますが、設計で迷った時必ずシンプルな方を選択するようにしています。この数々の項目からも取り入れたい要素は多くあり、それぞれについて良く考える事は当然重要ですが、最初から複雑な設計をしてしまうと用途が限定されてしまい、そこに住む人が使い難くなってしまいます。考えられる要素を満たした必要最低限なものを、空間も動線もシンプルにしていく事でより洗練された多用途な空間が生まれてくると考えています。

最後に

色々書いてしまいましたが、やっぱり設計で一番重要な部分がこの「テーマ」ですのでついつい熱が入って書いてしまいました。ただ、ここがぶれていたり、決めていなかったりすると、後々必ず後悔につながると考えていますのでどんな人もしっかり考える必要はあると思います。特に私たち夫婦はお互いに建築に携わっていることもあって、常に「理想の家は何か」と考えながら、その設計手段も模索してきました。もしかすると、手段としてはもっと新しく素晴らしいものが出てくるかもしれませんが、家づくりのテーマの部分については今後も当分ぶれる事は無いと考えています。
もしこの記事の内容がこれから家を考える人の考え方の少しでも足しになれば嬉しいです。今日も最後まで読んで頂きありがとうございました。

【設計テーマとその要素】
サスティナブル
①循環を考えた材料選び
②オフグリッド
③200年もつ家
④災害に強い
人にやさしい
①化学物質を使わない
②バリアフリー(動き・温度)
③シンプル

※1「0.5回換気」建築基準法では、住宅の居室(人が長く滞在する部屋)では0.5回/時間以上の空気の換気ができる設備の設置が義務付けられています。
※2「体感温度」部屋の中心の空気温度が20度でも、窓や壁に近い部分の温度が10度だと、体感温度は約15度程度となります。同じ空気温度が20度でも、窓や壁の断熱性能の高い家の方が体感温度が高く、快適な家と言われています。

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